来日公演に寄せて 
音楽評論家・天辰保文

「1979年、カリフォルニア、男の子たちは誰もが彼女に夢中になった。 『浪漫』から40年、時の流れと共にますます素敵になったリッキー・リー・ジョーンズとの再会」

 『浪漫』というのが、デビュー・アルバム『リッキー・リー・ジョーンズ』の日本国内盤のタイトルだった。ジャケットは、赤い帽子を斜めにかぶり、気怠くうつむき加減で煙草をくゆらせる写真だった。その一葉の写真からして独特の雰囲気があって、歌が香り立つようだったが、実際にそこから流れてきた音楽は、それどころじゃなかった。

 シャジーなビートに揺られながら、舌ったらずで可憐な、だけど、危うい色っぽさを含んだ歌声だった。それは、聴き手の心を奪いとるには充分だった。「チャック・Eは恋してるのよ、この歌を歌っている小さな女の子に、私に恋してるの」と歌われるそれは、恋する女性を前に落ち着きを失くしてしまった男性のことを、ユーモアを交えながら、優しくからかうような歌だった。

 それが、ぼくらと、彼女との出会いだ。華麗にブロンドをなびかせ、真っ赤なドレスと裸足が似合う伝説の家出娘、リッキー・リー・ジョーンズとの出会いだった。しかも、その歌声は、それまでのカリフォルニアの女性シンガーたちにはなかったような、懐かしくて、それでいて全く新しい景色を運び込んでくれた。ジャズ、フォーク、R&B、いろんな音楽に縛られることなく呼吸し、時の壁さえも自由に行き来しているような、彼女は、奔放な魅力を感じさせた。

 その頃、彼女は、「酔いどれ詩人」として既に世間を騒がせていたトム・ウェイツと、「恋するチャック」で歌った地元で評判のチャック・E・ワイズと3人で、自由気ままな暮らしを送っていた。ロサンゼルスの目抜き通り、サンタモニカ・ブールバード沿いのトロピカーナ・モーテルで、夜ごと3人は、酒を飲んで騒ぎ、音楽について、人生について語らい、時には怒鳴りあい、ふざけあい、そして恋に胸をときめかした。

 その「恋するチャック」は、全米チャートで4位まで上がるヒットとなり、アルバムもチャートで3位を記録、彼女に、グラミー賞の最優秀新人賞をもたらすことになる。彼女は、一躍時の人となった。ぼくら男の子たちは、誰もが夢中になった。もちろん、トム・ウェイツを含めて、ローウェル・ジョージにドクター・ジョン、ヴァン・ダイク・パークスにランディ・ニューマン、スティーリー・ダンの二人、つまりドナルド・フェイゲンにウォルター・ベッカー、ウィリー・ネルソンにアーロ・ガスリー、ダン・ヒックスにジョン・メレンキャンプと、ミュージシャンたちも誰もが彼女に首ったけで、我先にと彼女と一緒に歌ったり、演奏した。

 その『浪漫』から、今年で40年だ。この間、順風満帆に時を重ねてきたわけではない。むしろ、波乱に富んだ人生だった。いきなりの成功によって、無意味な喧騒に巻き込まれ、トム・ウェイツやチャック・E・ワイズとの、無邪気で無防備な青春の日々は、瞬く間に過去の思い出に変わった。

 ロサンゼルスを離れ、母親のもとに身を寄せたり、新しい出会いもあれば、裏切りも経験し、音楽の前線から身を隠したこともある。そうやって、紆余曲折を経ながらの40年だった。漠然と時をかわしていくのではなく、その都度我が身と、世の中ときちんと向き合い、信念を貫くというか、身を削るような思いで時を重ねてきた。世の中の流れに迎合することなど一度たりともなかった。

 淋しさや切なさ、悩みや痛み、そういった厄介なものを抱え込むことだって少なくなかったはずだ。しかし、彼女に限らず、生きていく上で毎日が必ずしも楽しいばかりではない。光と影とが寄り添っているからこそ、生きていくことに価値がある。その中で、どうしようもない悲しみや苦しみ、恐怖や不安に襲われることもあるだろう。言葉ではどうしても表現できないような感情を、説明がつかないその思いを、彼女は、ぼくらと共有するような、深い闇の中にだって価値があり、時には光以上に大切だということを気づかせてくれるような、そんな物語を紡ぎ続けてきた。

 近年は、ニューオーリンズに住んでいるらしく、2015年の、現時点での新作となる『The Other Side Of Desire』も、ジョン・クリアリーを含めてニューオーリンズ所縁の人たちとその町での録音になっている。タイトルからして、この街を舞台にしたテネシー・ウィリアムスの原作で、舞台や映画でお馴染みの『A Streetcar Named Desire (欲望という名の電車)』に由来することは想像に難くないが、この街は、かつて、「テナー・サックスがおれを呼んでいる、ほら、バンドが、『聖者が街にやってくる』を演奏し始める。いつか、きっと行ってやる」(「思い出のニューオーリンズ」)と、トム・ウェイツが歌い、憧れた街でもある。 

 そのリッキー・リー・ジョーンズの来日公演だ。ここ数年の間でも、日本で彼女の歌に触れることが出来なかったわけではない。ただし、今回のようなホールでの公演は随分と久しぶりになる。彼女の歌がいちだんと自由に、大きく羽ばたき、会場に豊かに、深く響き渡るのが楽しめるはずだ。それにしても、こうやって、ずっと聴き続けていることが喜びをもたらしてくれるようなシンガーは、そう滅多にはいない。しかも、若い頃に恋こがれた女性が、その時よりも増して素敵になってきた、そんな女性との再会だ。この胸のときめきが、ぼくは愛おしくもあり、大切にもしたい。そして、誇りにも思う。

チケット

S席
¥10,800-
(全席指定・税込)
A席
¥9,800-
(全席指定・税込)

※未就学児童入場不可 ※チケットはお一人様一枚必要です。

チケット一般発売日:3月1日(金) 予定

WEBチケット予約 特別電話チケット予約

※特電受付期間:1月15日(火)00:00~1月31日(木)23:59

大阪公演

主催:キョードー関西 / キョードー東京 / キョードー東京インターナショナル / 朝日新聞 / ぴあ
後援:WOWOW / FM COCOLO /タワーレコード / NME JAPAN 協力:ワーナーミュージック・ジャパン

東京公演

主催:キョードー東京 / キョードー東京インターナショナル / 朝日新聞 / ぴあ
後援:WOWOW / J-WAVE / InterFM897 / 文化放送 / タワーレコード / NME JAPAN
協力:ワーナーミュージック・ジャパン / NME JAPAN

招聘・企画制作:キョードー東京インターナショナル